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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)12707号 判決 1998年8月25日

甲事件原告

東京海上火災保険株式会社

甲事件被告

トモエタクシー株式会社

乙事件原告

トモエタクシー株式会社

乙事件被告

中井暢彦

主文

一  甲事件被告(乙事件原告)は、甲事件原告に対し、金七七万六〇〇〇円及びこれに対する平成七年三月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  甲事件原告のその余の請求及び甲事件被告(乙事件原告)の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その九を甲事件被告(乙事件原告)の負担とし、その余を甲事件原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  甲事件

甲事件被告は、甲事件原告に対し、金九七万円及びこれに対する平成七年三月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件

乙事件被告は、乙事件原告に対し、金六四万八〇四四円及びこれに対する平成七年二月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、甲事件被告(乙事件原告)の被用者である石村厚生運転の普通乗用自動車と乙事件被告運転の普通乗用自動車とが衝突した事故につき、甲事件原告が甲事件被告(乙事件原告)に対し、商法六六二条一項(保険代位)に基づき、訴外中井章二の有していた損害賠償請求権を取得したとして、損害賠償を請求し、甲事件被告(乙事件原告)が乙事件被告に対し、民法七〇九条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実等(証拠により比較的容易に認められる事実を含む)

1  事故の発生

左記事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

日時 平成七年二月八日午前一時四〇分頃

場所 大阪府交野市星田西三丁目三番一号先路上(以下「本件事故現場」という。)

事故車両一 普通乗用自動車(大阪三五ろ八〇八)(以下「中井車両」という。)

右運転者 乙事件被告(以下「暢彦」という。)

右所有者 中井章二(以下「章二」という。)

事故車両二 普通乗用自動車(大阪五五き四二二〇)(以下「トモエ車両」という。)

右運転者 石村厚生(以下「石村」という。)

態様 本件事故現場付近の交差点において、出合い頭衝突

2  甲事件被告(乙事件原告)の責任原因

本件事故当時、石村は、甲事件被告(乙事件原告)(以下「トモエ」という。)の従業員であり、その業務の執行中であった。

3  保険代位

甲事件原告(以下「東京海上」という。)は、章二との自動車保険契約に基づき、同人に対して、平成七年三月八日、中井車両の車両保険金一二〇万円の支払をした(甲四、弁論の全趣旨)。

4  トモエの損害額

修理費 五九万二〇四四円

二  争点

1  本件事故の態様

(東京海上及び暢彦の主張)

本件事故は、点滅信号機の設置された交差点における直進車同士の衝突事故である。信号の表示は、中井車両の進行方向が黄色点滅、トモエ車両の進行方向が赤色点滅であった。中井車両は、交差点に進入時に時速約三〇ないし四〇キロメートルに減速しながら左右を確認し、右方のトモエ車両が交差点に向かい進行してくるのを確認しながらも、トモエ車両が減速もしくは一時停止するものと思い交差点に進入した。一方、トモエ車両は制限時速三〇キロメートルのところを時速約四〇キロメートルで交差点に向けて走行し、中井車両を一五メートル手前(停止線付近)で発見し、急ブレーキをかけたが間に合わず、中井車両に衝突した。

石村には、赤色点滅信号でありながら一時停止せず、しかも制限時速を約時速一〇キロメートルオーバーして本件交差点に進入した過失があり、本件事故発生の少なくとも八割は、石村の右過失によるものである。

(トモエの主張)

本件交差点は、見通しが悪く、双方の車両が互いに確認できる位置は交差点中心より約一五メートル手前でなければ確認できない。

よって、双方ともに、点滅信号機の設置された交差点を通過する際の安全確認、徐行義務を怠って本件事故が発生したのであるから、過失割合は五対五である。

2  章二の損害額(甲事件)

(東京海上の主張)

中井車両は、本件事故により修理費一二〇万円相当の損害を被った。中井車両の本件事故当時の時価は九七万円であるから、九七万円が損害額となる。

(トモエの主張)

争う。

3  トモエの損害額(前記争いのない修理費を除く)(乙事件)

(トモエの主張)

休車損害 五万六〇〇〇円

(暢彦の主張)

争う。

4  示談契約(甲事件の請求に対して)

(トモエの主張)

本件事故については、平成七年七月二二日、章二とトモエとの間で損害全体について示談契約が成立している。

トモエは、章二に対し、同日、右示談契約に基づき、二〇万円を支払った。

(東京海上の主張)

トモエ主張の示談契約は成立していない。

章二が受け取った二〇万円は、レッカー代、レンタカー代、暢彦のレントゲン代等であり、中井車両の損害金は含んでいない。

5  消滅時効(乙事件の請求に対して)

(暢彦の主張)

トモエが、暢彦に対し、トモエ車両の修理費及び休車損害を請求して本件訴訟を提起したのは、平成一〇年五月一九日である。本件交通事故発生日は、平成七年二月八日である。トモエは、右事故日において損害及び加害者を知っている。

よって、本件事故日から三年を経過した日に消滅時効が完成している。

(トモエの主張)

争う。

第三争点等に対する判断(一部争いのない事実を含む)

一  争点1について(本件事故の態様)

1  前記争いのない事実、証拠(甲一、乙一)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、大阪府交野市星田西三丁目三番一号先路上であり、その付近の概況は別紙図面記載のとおりである。本件事故現場は、南北方向の道路(以下「南北道路」という。)と東西方向の道路(以下「東西道路」という。)とがほぼ垂直に交わる信号機が設置された交差点(以下「本件交差点」という。)である。南北道路は、幅員約七メートルの片側一車線で両側には歩道が設置されており、制限速度は時速四〇キロメートルに規制されていた。東西道路は、幅員約五・八メートルの片側一車線で両側には歩道が設置されており、制限速度は時速三〇キロメートルに規制されていた。本件事故当時、南北道路の信号は黄色点滅、東西道路の信号は赤色点滅の状態であった。

暢彦は、平成七年二月八日午前一時四〇分頃、中井車両を運転し、南北道路の北行車線を南から北に向けて走行していた。本件交差点手前約三〇メートルで対面信号が黄色点滅の状態であったので時速約四〇キロメートルに減速しながら左右を確認したところ、右方からトモエ車両が本件交差点に向かって進行してくるのを確認したが、トモエ車両の対面信号は赤色点滅であるからトモエ車両が減速もしくは一時停止するものと判断し、本件交差点に進入した。他方、石村は、トモエ車両を運転し、東西道路の西行車線を東から西に向けて時速約四〇キロメートルで走行中、本件事故現場の対面信号が赤色の点滅表示であることには気づいていたが、それほど減速を行わないまま本件交差点に進入しようとしたところ、中井車両を約一五メートル手前(停止線付近)で発見し、急ブレーキをかけたが間に合わず、中井車両に衝突した。

以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  右認定事実によれば、本件事故は、主として、石村が、対面信号が赤色の点滅表示であるにもかかわらず、一時停止をせず、しかも、制限速度を時速約一〇キロメートル超える速度で進行した過失のために起きたものであると認められる。しかしながら、暢彦としても、トモエ車両が減速もしくは一時停止するものと即断することなく、その動静に注意することが期待されたというべきである。

よって、本件においては、右認定にかかる一切の事情を斟酌し、石村と暢彦の過失は、八対二の関係にあると認めるのが相当である。

二  争点2について(章二の損害額)

1  損害額(過失相殺前) 九七万円

中井車両は、本件事故により修理費として一二〇万円を要する損害を被ったが、同車両の本件事故当時の時価は九七万円である(甲二、三)。

したがって、章二は、車両損害として九七万円の損害を被ったと認められる。

2  損害額(過失相殺後) 七七万六〇〇〇円

右損害額九七万円につき、前記の次第でその二割を控除すると、七七万六〇〇〇円となる。

三  争点3等について(トモエの損害額)

1  損害額(過失相殺前)

(一) 修理費 五九万二〇四四円

右については、前記のとおり、当事者間に争いがない。

(二) 休車損害 五万六〇〇〇円

トモエ車両は、本件事故後七日間休車し、右休車により一日あたり八〇〇〇円の損失が出たと認められる(乙二、弁論の全趣旨)。

したがって、トモエの休車損害は、五万六〇〇〇円と認められる。

2  損害額(過失相殺後) 一二万九六〇八円

右損害額の合計は、六四万八〇四四円であるところ、、前記の次第でその八割を控除すると、一二万九六〇八円(一円未満切捨て)となる。

四  争点4について(示談契約)

トモエは、本件事故について、平成七年七月二二日、章二とトモエとの間で損害全体について本件示談契約が成立していると主張し、これに沿う書証として、章二がトモエに対して交付した二〇万円の領収書(乙三)を提出する。

しかしながら、右領収書には、「但示談成立金として」という文言が記載されているものの、章二が右文言を記載したことあるいは章二が右文言を記載していないとしても右領収書に署名した時点でこれが記載されていたことを認めるに足りる証拠はない。

また、仮に右二〇万円が損害全体を解決する趣旨であるとすると、後日の紛争が生じないよう示談の範囲・内容を明確にした示談契約書を作成するのが通常であると解されるが、章二とトモエとの間では、示談契約書は作成されておらず(証人中井章二、弁論の全趣旨)、この点でも、トモエの右主張には疑問が残る。

さらに、右二〇万円が損害全体の示談金であるとすると、トモエ内部で、各損害費目ごとの金額、過失割合等を検討した上で金額を算出し、決済を経ているはずであると思われる。トモエは、本件訴訟においては、過失割合が五対五であることを前提に双方の損害を計算すれば示談金として二〇万円が正当であると主張しているが、右二〇万円の支払時点において各損害費目ごとの金額、過失割合等を検討した上で金額を算出し、決済を経ていたことを認めるに足りる証拠はないし、タクシー業者であるトモエが、本件事故の基本的な態様(トモエ車両が赤色点滅表示、中井車両が黄色点滅表示で本件交差点に進入したこと)を知っていながら(甲一)、過失割合が五対五であることを前提に金額をはじき出していたとはにわかに信じがたく、本件訴訟における右説明は辻褄合わせのものである可能性を払拭できない。

むしろ、<1>東京海上は、章二との自動車保険契約に基づき、中井車両の修理費の見積りを出していたトヨタオート大阪株式会社に対し、平成七年三月八日、保険金一二〇万円を支払い、章二は、これを同社からの新車購入費用の頭金にあてたこと(甲四、証人中井章二、弁論の全趣旨)、<2>トモエが章二に二〇万円を支払ったのは平成七年七月二二日のことであり、この時点では、トモエの担当者は章二が既に東京海上から車両保険金の支払を受けていたことを聞いていたこと(証人尾崎実)からすれば、右二〇万円は、中井車両の車両損害以外の損害に関するものであると認められる。

以上のとおりであるから、トモエ主張にかかる内容の示談契約が成立したとは認められない。

五  争点5について(消滅時効)

本件交通事故発生日は、平成七年二月八日であるところ(前記争いのない事実)、トモエは、右事故日において損害の発生及び加害者を知っているから(甲一、弁論の全趣旨)、同日から三年の経過(但し、初日不算入)をもって消滅時効の期間は経過したことになる。

六  結論

以上の次第で、東京海上のトモエに対する請求は、七七万六〇〇〇円及びこれに対する保険金支払日の翌日である平成七年三月九日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、トモエの暢彦に対する請求は、理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口浩司)

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